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3歳牝馬のローテーション / 初心者向け解説

初心者向けに有力3歳牝馬のローテーションを解説していきます。

競走馬はやみくもにレースを走っているわけではありません。たくさんのレースがあるなかで、意図をもって出走するレースを選択しています。その過程のなかで、最高格付けであり賞金も高額なG1レースでの優勝を目指すことになります。

実力馬がどういったローテーションをたどっていくかを知ることで各レースの位置づけがわかり、JRAのレース体系への理解がすすみます

近年はトレーニングセンター外(外厩)での調整技術が向上した影響で、トライアルを使わず本番(G1)に直行するケースも増えています。しかし、レースを使うのが競馬の基本で、トライアルの存在意義がなくなるわけではありません。

3歳牝馬の目標レース

20を超えるG1があるなか、3歳牝馬だけが出走できるG1は3レースしかありません。それが桜花賞オークス秋華賞で、この3レースが3歳牝馬の目標レースとなります。

3レースを総称して牝馬三冠といい、この牝馬三冠を中心に3歳牝馬のローテーションも組まれていきます。近年ではアーモンドアイジェンティルドンナアパパネが牝馬三冠をすべて勝利し、三冠馬の栄誉を授かっています。

桜花賞、オークス、秋華賞が目標レース。

牝馬三冠の開催時期

先に牝馬三冠レースのおおまかな開催時期を覚えておきましょう。春に桜花賞とオークス、秋に秋華賞が行われます。

レース名 時期 競馬場 距離
桜花賞 4月 阪神 1600m
オークス 6月 東京 2400m
秋華賞 10月 京都 2000m

まず目指すは桜花賞

では、まず最初に桜花賞までのローテーションをみていきます。

桜花賞は阪神競馬場の1600m(マイル)のレースで、出走可能な馬(フルゲート)は18頭です。

マイルの距離はどの馬も守備範囲といえ、芝に適性のある有力馬は、ほぼ全馬が桜花賞を目標とします。

桜花賞に出走するには

桜花賞は18頭しか出走できません。出走を希望する馬が18頭より多い場合は、以下のルールで出走馬が決まります。

  1. 優先出走権をもつ馬
  2. 本賞金順で上位の馬
  3. 本賞金が同額の場合は抽選

優先出走権を得るには

優先出走権とは文字通り、特定レースに優先的に出走できる権利のことです。桜花賞の優先出走権はトライアルレースの上位馬に与えられます。桜花賞トライアルには次の3レースが指定されていて、桜花賞の1か月ほど前に順次開催されます。

  • チューリップ賞(G2)…3着以内
  • フィリーズレビュー(G2)…3着以内
  • アネモネS(L)…2着以内

3レースで最大8頭が優先出走権を得ることになります。

※同じ時期に3歳牝馬限定のフラワーC(G3)がありますが、これはトライアルではありません。しかし1着になると十分な本賞金が加算されるため、桜花賞のステップレースのひとつとして機能しています。

本賞金のボーダーライン

残りの出走枠は本賞金の多い馬から順に埋まります。本賞金はレースで勝利するか重賞で2着になると加算されます。つまり実績上位の馬ほど出走が容易になります。

桜花賞への出走可能な本賞金のボーダーラインは毎年変わりますが、3勝馬であればまず問題なし。近年は条件2勝(新馬+1勝クラス)だと厳しい状況で、

  • 新馬+OP勝ち
  • 新馬+重賞2着1回

あたりの実績の馬がボーダーになることが多いです。

本賞金の十分な馬のローテーション

ここまでを踏まえて桜花賞へのローテーションをみていきます。

桜花賞に出走するための本賞金が十分に足りている馬は、本番である桜花賞を見据えた調整になります。

2歳時から重賞を勝つなど活躍している馬

3歳の初戦として桜花賞トライアルをひとつ使い、桜花賞に臨むことが通常です。桜花賞出走のための本賞金が足りていても、力関係の把握や経験を積ませるためにレースを使います。なかでも本番と同じ距離のチューリップ賞(G2)はレース間隔にも余裕のあることから有力馬が集います。

3歳の1月、2月に本賞金を加算した馬

1月から2月にかけて、有力牝馬が出走する主なオープンクラスのレースが以下になります。

  • シンザン記念(G3)
  • フェアリーS(G3)※牝馬限定
  • 紅梅S(L)※牝馬限定
  • クロッカスS(L)
  • エルフィンS(L)※牝馬限定
  • クイーンC(G3)※牝馬限定

これらのレースで勝利し本賞金を加算したとしても、やはりトライアルに出走するケースが多いです。ただ、2月下旬のクイーンC(G3)の勝ち馬はトライアルを走ると使い詰めとなるため、桜花賞へ直行となることがしばしばです。本賞金が足りていれば、無理をせず馬の調子が優先されます。

本賞金の足りていない馬

本賞金が足りていない馬は桜花賞トライアルへ出走し、優先出走権の獲得を目指します。権利を取得しないと桜花賞への出走は叶わないので、かなり仕上げられた状態でのレースとなります。相手関係も重要で、各トライアルの出走予定馬をみて権利取得の容易そうなレースが選択されます。

忘れてはいけないのが、桜花賞トライアル自体にも出走できる上限頭数があることです。1勝馬では抽選を外し出走できないこともあります。

春の大目標となるオークス

桜花賞が終わると、東京競馬場の2400mで開催されるオークス(優駿牝馬)が次なる目標です。出走可能な馬(フルゲート)は18頭です。桜花賞と大きく異なる点が800m延長となる距離です。

オークスのテーマは距離

短距離馬は回避

競馬の2400mは長距離のカテゴリであり、気性やスタミナに自信がないと乗り切れません。よって、優先出走権を有していても明らかに短距離向きなことを理由に回避する馬もいます。

桜花賞と同じ1600mのNHKマイルC(G1)が中3週後にあり、回避馬の有力な次走候補になります。ただし、NHKマイルCは牡馬も出走します。

キャリアの浅い3歳春の時点ではどの馬も適正距離が判明していない状態といえ、実際には距離に不安を感じつつもオークスに出走を決める馬が大半です。オークスにはそれだけの歴史の重みがあります。さらに距離適性よりも馬の完成度の高さで好走してしまう例が過去にいくらでもあり、それがまた出走を後押しします。

オークスに出走するには

桜花賞同様に優先出走権があり、その他の出走馬は本賞金順で決まります。

優先出走権を得るには

優先出走権はトライアル2レースのほか、桜花賞の上位馬にも与えられます。

  • 桜花賞(G1)…5着以内
  • フローラS(G2)…2着以内
  • スイートピーS(L)…1着

桜花賞で5着までに権利を与えるのは、オークスをレベルの高いレースとするためです。桜花賞で掲示板に載るような馬は世代上位と見なされます。桜花賞1着、2着馬は本賞金が加算されるので、実質的に恩恵を受けるのは3着、4着、5着の本賞金の少ない馬です。

直行する桜花賞組

桜花賞に出走した馬はオークスに直行し、トライアルに出てくることは稀です。

桜花賞からフローラSまでは中1週(2週間後の意)と十分な間隔がないだけでなく、G1出走で疲弊した馬体を回復する必要があるからです。仮に出走しトライアルを勝てたとしても、さらに中3週後にオークスが控えており体調維持が難しい。牝馬は特に体調を気遣う生き物です。

本賞金の足りない桜花賞組

もちろん優先出走権がなく、本賞金も足りない馬はオークス回避を決断するか、無理を承知でトライアルを走ることになります。

もっとも悩ましいのが、本賞金がボーダーライン上の陣営です。この場合はトライアルに出走せず、本賞金上位馬の回避を祈りながらオークスへの調整を続けることが多いです。

オークスと相性のいい、忘れな草賞

桜花賞当日に2000mの忘れな草賞(L)が開催されます。トライアルではありませんが、過去にオークス優勝馬を何頭も出した、有力なステップレースです。

本賞金上積みのため勝利が求められますが、トライアルに比べてオークスまでの日程にゆとりがあるのが特徴です。

トライアルレース

オークストライアルは2レースありますが、有力馬はフローラSに集結します。桜花賞トライアルと異なり、権利を取得できる馬が限られているため、消耗度の高い一戦となります。



最後の一冠、秋華賞

オークス出走馬の多くは、目標となるレースを終え休養に入ります。夏の間は北海道に放牧にだされ、秋の訪れとともにターフに戻ってきます。

秋華賞の舞台は京都競馬場の2000m。桜花賞とオークスの中間となる2000mは中距離のカテゴリです。春の実績馬と夏の間に台頭してきた勢力がぶつかる一戦となります。

成長力が問われる、最後の一冠

スプリントに適性がある馬は古馬戦へ

3歳春までは同世代で争いますが、夏からは年長馬(古馬)と混合のレースもはじまります。

秋に3歳限定の短距離G1は開催されないので、スプリント(1000m-1300m)を主戦場とする馬は古馬混合のG1スプリンターズSを目指すことになります。マイルを得意とする馬は秋華賞トライアルに出走し、距離への目途がたてば秋華賞を目指すのが通例です。

秋華賞に出走するには

桜花賞、オークスと同じく優先出走権があります。その他の出走馬が本賞金順で決まるのも同様です。

優先出走権を得るには

秋華賞トライアルには以下が指定されています。

  • ローズS(G2)…3着以内
  • 紫苑S(G3)…3着以内

2レースともに秋華賞の1か月ほど前に行われます。

本賞金のボーダーライン

年度によりバラツキはありますが、以下の成績がボーダーライン上になることが多いです。夏に勝ち星をあげて頭角を現してきた(夏の上がり馬)は最低でも2勝クラスは勝たないと秋華賞への出走は難しくなります。

  • 新馬+1勝クラス+2勝クラス
  • 新馬+2歳G3
  • 新馬+OP
  • 新馬+重賞2着

春に活躍した馬のローテーション

放牧されて体を緩めていることもあり、トライアルを叩いて本番の秋華賞へ向かいます。勝負というより調整の意味合いが強いです。秋華賞と同じ距離のローズS(G2)が有力ですが、関東馬であれば紫苑S(G3)も選択されます。

本賞金が十分でない馬のローテション

春のレース後に休養していた馬

優先出走権を目指して、トライアルに出走します。トライアルの負担重量は全馬同じとなる定量戦で、桜花賞馬、オークス馬といった実績馬と同じ条件で戦うことになります。権利取得は容易でなく、仕上げられた状態で臨みます。

夏場に競馬を使ってきた馬

夏の間に秋華賞出走に足る本賞金を加算できていなければ、トライアルを使うことになります。競馬を使っている分、有利な面もあります。

古馬との対戦へ

秋華賞(と菊花賞)が終わると、以降は3歳戦がなくなり古馬とのレースになります。

牝馬三冠を終えたことで、同世代の対決にも一区切り。ここからのローテションは各馬さまざまで、さらに古馬とのG1戦に挑む馬もいれば、年内を休養に充てる馬、自己条件に戻って走る馬もいます。

ここでは、毎年、数頭が出走するエリザベス女王杯だけ取り上げておきます。

エリザベス女王杯

世代のトップクラスが次なる目標とするのが、秋華賞から中3週となる牝馬限定のエリザベス女王杯(G1)です。

エリザベス女王杯は古馬も含めた3歳以上の女王決定戦です。京都競馬場の2200mと秋華賞に近い条件で行われ、3歳牝馬は負担重量がマイナス2kgとなるハンデがあります。

秋華賞でお釣りがなくなるような馬は出走せず、余力のある3歳馬が古馬に胸を借りる場です。

実例

実際の馬のローテーションを何頭かみて、終わりにしたいと思います。

リスグラシュー

距離に融通が利くタイプ。理想形なローテーションを歩んだ。

  • チューリップ賞(G3)…3着
  • 桜花賞(G1)…2着
  • オークス(G1)…5着
  • ローズS(G1)…3着
  • 秋華賞(G1)…2着
  • エリザベス女王杯(G1)…8着

3歳牝馬の鑑のようなローテーション。2歳時に重賞を勝ちG1でも2着しているので本賞金は十分。トライアルから桜花賞、オークスと使い、夏場を休養に充ててトライアルから秋華賞、そしてエリザベス女王杯です。

アエロリット

トップマイラーの例です。

  • フェアリーS(G3)…2着
  • クイーンC(G3)…2着
  • 桜花賞(G1)…5着
  • NHKマイルC(G1)…1着
  • クイーンS(G3)…1着
  • 秋華賞(G1)…7着

重賞2着2回で本賞金を稼ぎ、トライアルは出走せずに桜花賞に直行。距離適性を重視してオークスを回避しNHKマイルCに向かいます。秋はマイル路線ではなく秋華賞を目指し、トライアルで距離延長の手応えをつかんで本番へ。秋華賞後は休養。

ミッキークイーン

デビューが遅めの中距離タイプ。

  • クイーンC(G3)…2着
  • 忘れな草賞(L)…1着
  • オークス(G1)…1着
  • ローズS(G2)…2着
  • 秋華賞(G1)…1着
  • ジャパンC(G1)…8着

重賞2着で本賞金を加算したものの距離延長で力を発揮できるとみて桜花賞は回避。忘れな草賞をステップにオークスを制します。秋はトライアルから秋華賞に挑み、二冠を達成。その後は果敢にもジャパンカップに参戦します。

タッチングスピーチ

能力の高さを期待され、目標はいつも高いところ。

  • チューリップ賞…9着
  • 忘れな草賞(L)…8着
  • 1勝クラス…1着
  • ローズS(G2)…1着
  • 秋華賞(G1)…6着
  • エリザベス女王杯(G1)…3着

相当の良血馬で1勝馬ながら桜花賞トライアルに格上挑戦するも着外。桜花賞への出走はかなわず、忘れな草賞でオークスへ向け本賞金の加算を狙いますが、またもや惨敗。ここで休養に入り、夏場に復帰します。自己条件である1勝クラスを勝ち、秋華賞トライアルに出走。見事に勝利し秋華賞の優先出走権を獲得します。