ファミリーナンバーは、サラブレッドの血統による分類方法のひとつ。どの母馬(これを基礎牝馬という)から発展した系統に属するかを示すものです。一般には特別な意味をもたず、単に牝系(母系)の分類として使用されてますが、一部に信奉者がいます。
詳細な血統表には
- ファミリーNO 1-a
- FNo.[1-a]
のように表記されています。この 1-a にあたる部位がファミリーナンバーです。
ファミリーナンバーの成り立ち
ファミリーナンバーは100年以上前の1895年に発案されています。
イギリスのダービー、セントレジャー(日本の菊花賞に相当)、オークスの3レースに優勝した馬で統計をとり、勝ち馬が多い出身牝系順に1号から43号までの番号がふられました。
43号ということは、43頭の牝馬(基礎牝馬)の子孫を比較をしたということです。
番号の意味合い
優勝馬とその父に着目します。優勝馬が多い牝系は競争能力が優れているとして競争族、優勝馬の父が多い牝系は繁殖能力に優れているとして種牡馬族としました。
- 競走族 1, 2, 3, 4, 5 号
- 種牡馬族 3, 8, 11, 12, 14 号
競争能力に優れたファミリーと繁殖能力に優れたファミリーが異なるということは、
競走能力と繁殖能力は別モノ。
ということを証明しています。競走馬として一流でも種牡馬としてサッパリな馬もいるので納得です。
集計範囲の拡大
1953年からは集計範囲がひろげられ、ファミリーテーブルという書籍にまとめられます。
ファミリーは51号まで増え、1号から23号まではその子孫が繁栄したために同じファミリーのなかをアルファベットで細分化します。1号族のa分岐といった具合です。
さらに南北戦争などで血統書が失われたアメリカの血統を追加し、これをA1からA37としました。
牝系を分類する意味
そもそもなぜ牝系に注目する必要があるのでしょうか。
牝系の重要性
サラブレッドの能力は種牡馬(しゅぼば・父)と繁殖牝馬(母)から受け継がれます。どういった血統から高い競争能力をもつ馬が生産できるかは、生産者にとって大きな関心事です。
繁殖牝馬で左右される仔馬の能力
種牡馬に比べると繁殖牝馬は地味な扱いです。優秀な繁殖牝馬といわれても、なかなか馬の名前もあがらないと思います。それでも生産者が大事に扱っているのは種牡馬より繁殖牝馬です。経験則から牝馬を重視されるのです。
繁殖牝馬の質が、種牡馬の質よりも影響を与えるとの論文もあります。
「競走能力に関しては、父系より母系からの遺伝性が大きく貢献しているかもしれない」
論文『サラブレッド繁殖戦略における母系の潜在的役割(Potential role of maternal lineage in the Thoroughbred breeding strategy)』(Xiang LiらReproduction Fertility and development誌 2015年5月発行)
この論文のなかで、研究者が母系の影響力の高さの理由にミトコンドリアDNAの存在を仮説としてあげています。
ロマンあふれるミトコンドリア説
牝系が重視される理由のひとつに、このミトコンドリアDNAが母からしか受け継がれないことがあげられます。ミトコンドリアはエネルギーの源となるもので、競走能力にもなんらかの影響をもたらしていると推察されます。
母からしか受け継がれないナニカがある。
グループ化の意味
1年に多くの産駒(仔)を残すことができる種牡馬と違い、繁殖牝馬は1年に1頭しか生産できません。これは優秀な産駒を生む能力の見極めに時間がかかることを意味します。
そうであるなら特定の母を起点とした子孫を一族としてグループ化し、優秀な産駒を生む能力を推定することにも意義があります。特定の牝系で優秀な競走馬が多く発現するなら、その牝系に属する繁殖牝馬も優秀な競走馬を生む確率が高いはずです。
かんたんに言い換えると、
近親に活躍馬が多ければ、母馬として期待がもてる。
ということです。
ファミリーナンバーの意義
では、はたして現在でもファミリーナンバーが牝系の重要度をはかる指標として有効でしょうか。
遠くなる基礎牝馬
代を重ねるごとに基礎牝馬からは遠くなっていきます。
たとえばロードカナロアとニシノフラワーは同じ 2-s に属しています。2頭の母をたどると、アメリカの伝説的名馬セクレタリアトの母サムシングロイヤルにいきあたります。
牝系図でみてみましょう。(赤字が牝馬で、ロードカナロアの母がレディブラッサム)
|Syrian Sea
||Alada
|||Super Luna
||||サラトガデュー
|||||レディブラッサム
||||||ロードカナロア
|The Bride
||Fabulous Fraud
|||デユプリシト
||||ニシノフラワー(桜花賞)
|Secretariat(殿堂馬,米三冠)
すでにちょっと遠いですね…
同じ 2-s に属する馬としてアルアイン(皐月賞)がいます。こちらはサムシングロイヤルから、さらに12代たどった1852年生まれのTasmaniaという牝馬まで一致する馬を見つけることができません。
そもそも 2-s の基礎牝馬は、Orville Mare(1809年生)で、2号族の基礎牝馬はBurton Barb Mare(1660年生)です。ここまでたどらないといけないものを、ひとつのグループとして把握するのは難しいです。
淘汰される牝系
競争成績が奮わない牝系は衰退していきます。数字でみてみましょう。
中央競馬で活躍している馬のファミリーナンバーを集計しました。子孫が繁栄したとしてアルファベット分岐がされた23号までが対象です。2005年以降に生まれた重賞馬を2019年2月までカウントしています。
ファミリー | 重賞馬 | 割合 |
---|---|---|
1号族 | 98 頭 | 13.5 % |
2号族 | 62 頭 | 8.5 % |
3号族 | 45 頭 | 6.2 % |
4号族 | 78 頭 | 10.7 % |
5号族 | 19 頭 | 2.6 % |
6号族 | 23 頭 | 3.2 % |
7号族 | 26 頭 | 3.6 % |
8号族 | 40 頭 | 5.5 % |
9号族 | 74 頭 | 10.2 % |
10号族 | 18 頭 | 2.5 % |
11号族 | 17 頭 | 2.3 % |
12号族 | 25 頭 | 3.4 % |
13号族 | 31 頭 | 4.3 % |
14号族 | 19 頭 | 2.6 % |
15号族 | 2 頭 | 0.3 % |
16号族 | 52 頭 | 7.2 % |
17号族 | 7 頭 | 1.0 % |
18号族 | 6 頭 | 0.8 % |
19号族 | 13 頭 | 1.8 % |
20号族 | 15 頭 | 2.1 % |
21号族 | 2 頭 | 0.3 % |
22号族 | 22 頭 | 3.0 % |
23号族 | 10 頭 | 1.4 % |
1号族がよく走ると思った人もいるかもしれませんが、そもそも1号族の馬が多いんです。
ファミリーが淘汰され比較数が少なくなったことによって、指標としての意味合いは薄れています。
もっと近い牝馬にフォーカスする
時が経過したことにより、ファミリーナンバーは活力のある牝系を見分けるには適さなくなりました。しかし、おおまかに牝系や近親が把握できるという利点は残っています。
牝系の重要度は変わらないが、血統的に近い牝馬(上の例であればサムシングロイヤル)に注目したほうがいいでしょう。それを探す一助としてファミリーナンバーは有効であるといえます。
最後に、各ファミリーの活躍馬はこちらから確認できます。