競馬歴の長い人でも理解できていない人の多い魔法のワード「手前を替える」について説明していきます。手前替えは馬の器用さとも密接に関連していて、斜行や最後の伸び、レース中の故障などとも関連があります。
騎手のレース後談話でもたびたび登場するワードなので理解を深めておきましょう。
「手前を替える」とは?
馬の走りの特徴とともに、手前を替えるという動作についてみていきます。
推進力を担うのは後ろ脚
馬の走りの推進力を担うのは、主に後ろ脚です。前脚はバランスをとったり方向転換などに使われます。
右手前と左手前
馬は速度によって脚の運びが異なります。レース中の競走馬は交叉襲歩(こうさしゅうほ)という走法をしていて、左右の脚が非対称に動きます。
そして左右の前脚のうち、どちらがあとに着地するかで
- 右手前(みぎてまえ)
- 左手前(ひだりてまえ)
に区別されます。
この、右手前で走っている状態を左手前にする、もしくはその逆のことを手前を替えるといいます。
手前を替える必要性
次は「手前を替える」動作がもつ意味についてみていきます。
右手前にあるとはどういう状態か
馬の走法上どちらかの手前で走るのですが、右手前にあるときは右前脚が左前脚に遅れて蹴り上げることになります。これは、その分体重を支える必要があることを意味します。つまり、
右手前とは右前脚に体重がかかっている状態
と理解するのが分かりやすいかと思います。重心が右にあれば、右方向に動きやすいですね。
手前を替えるのはいつか
馬は手前を替えずとも走り続けます。手前を替えるのは手前を替えずに走ると都合が悪いときです。レース中では主に次の2つの場合があてはまります。
- 方向転換
- 疲労
競馬の大きな方向転換にコーナーを曲がることがあります。カーブでは重心が内側にないとうまく回ることはできません。外側に重心があれば内ラチから離れて行ってしまいます。左回りの東京競馬場であれば、コーナーを曲がるときは左手前にしているのが理にかなっています。
また片方の手前で走り続ければ、一方の前脚に負担がかかり続けることになるので疲労が蓄積します。最終コーナーから直線に入るときに手前を替えるのは、最後の伸びにつなげるためというわけです。
手前を替えるには
調教
馬は自身が走りよいと感じる手前で走ります。しかし、レースで十分に力を発揮するにはコースや状況に合わせて手前を替えていく必要があるので、日々の調教を通じて手前を替えたほうが走りやすいことを教え込みます。
日本の競馬場は左右の回りがあるので、右回りコースではカーブは右手前に直線は左手前にといった具合です。
騎手がすること
調教を施していてもレース中に思うように手前を替えてくれない馬もいます。直線で馬群をさばくために進路変更を要することもあります。そういったときには騎手が馬に合図を送り、手前を替えるように促します。
具体的には左右の体重移動や手綱を引く、ムチを使うといったことです。ムチは行きたい方向の反対側に使用します。馬はムチから逃げるような方向に走るためです。
個々の馬の特性
利き脚は存在するか
一般的にはどちらの手前もこなします。ただ他の動物と同じく心臓が左側にあるので、左手前で走るのが自然とされています。人間の陸上競技のトラックが左回りなのと理由は同じですね。
また、どこかの脚に故障を抱えていると一方の手前を苦にすることがあるようです。
馬によって巧拙がある
手前をスムーズに替えることができれば減速も少なく済みますが、巧拙は馬により差があります。
手前を替えると一時的に回転襲歩(かいてんしゅうほ)という走法になります。この走法は乗り手に反動が伝わる走りなのですが、手前の切り替えが上手な馬ほど騎手が反動を感じることはありません。
故障との関連性
手前を替える動作は変則的に脚を動かすことになるので、負担は大きくなります。とりわけ3コーナーから直線にかけてはスピードもあがっていくなかで手前を替えるので、バランスを損ない故障のきっかけとなりやすいです。