伝説の新馬戦をとりあげます。
新馬戦は各陣営ともに有力馬であるほど、慎重に勝ちにいきたいもの。本賞金をはやくに加算できれば、クラシックに向けてゆとりのあるローテーションを組むことができる。
ただいくら評判馬であっても、経験の浅さは否めない。他陣営の有力馬がどの新馬戦に出走してくるかも耳に入るので、有力馬同士は一般には避けられる傾向がある。
また多数の有力馬を抱える大手オーナーブリーダーは勿論、有力馬の使い分けをおこなう。よって新馬戦からG1級の馬が相まみえることは多くない。
レアケースとなる、後のG1馬が複数出走した新馬戦を中心に7レース紹介していきます。
目次
アンライバルド 2008年10月26日 京都芝1800m
まずは真っ先に上がるのがアンライバルドの勝った新馬戦。アンライバルド、ブエナビスタ、スリーロールスという後のクラシックホース3頭の共演となった、あまりに有名な一戦。
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | アンライバルド | 3 | 7.6 |
2 | リーチザクラウン | 2 | 2.7 |
3 | ブエナビスタ | 1 | 2.3 |
4 | スリーロールス | 8 | 49.7 |
春のクラシックを沸かせた上位3頭
1番人気に推されたのはスペシャルウィーク産駒の良血ブエナビスタ。母は阪神3歳牝馬Sでエアグルーヴを下したビワハイジ。半兄には皐月賞と菊花賞でディープインパクトの2着となったアドマイヤジャパン。そして弥生賞を勝って皐月賞では1番人気(4着)だったアドマイヤオーラがいた。
ブエナビスタは、次走の未勝利戦から阪神JF、チューリップ賞(G3)、桜花賞、オークスと5連勝。三冠のかかった秋華賞では降着もあり3着となったが、その後も牡馬交じりの中距離G1で中心的な活躍をみせ、天皇賞秋、ジャパンCを制した。G1の連対が計13回を数える屈指の名牝へと成長していった。
2番人気は武豊騎乗のリーザクラウン。こちらもスペシャルウィーク産駒。雄大な馬体と抜群の調教内容で人気の一角に。
リーチザクラウンも次走の未勝利戦と500万下を連勝。きさらぎ賞(G3)を勝って2番人気の皐月賞を13着と大敗した後、ダービーをロジユニヴァースの2着と巻き返した。
このレースを勝利したアンライバルドは3番人気。母系が優秀で、半兄フサイチコンコルドは3戦無敗でダービーを制した伝説の馬。半姉グレースアドマイヤも重賞馬で、母として皐月賞馬ヴィクトリーを生んでいる。
アンライバルドは次走のオープン競走を3着と人気を裏切るが、その後は皐月賞まで3連勝。ダービー大敗後は精彩を欠く競馬が続いた。
遅れてきた1頭により伝説へ
この新馬戦はアンライバルドが楽に抜け出し、ブエナビスタが猛追するといった印象。
上位3頭が春のクラシックを賑わせ、レベルの高い新馬戦だったと認識されていた。
そこに加わったがスリーロールス。菊花賞に出走するまでに10戦3勝。1000万下を勝ち上がって出走した菊花賞も8番人気と低評価。しかし、大一番で殊勲の勝利をあげたことにより、伝説の新馬戦の地位が確立した。
スリーロールスは菊花賞の次走、有馬記念で故障を発生、再起は叶わず引退した。この有馬記念では上記3頭も出走し、ブエナビスタ2着、リーチザクラウン13着、アンライバルド15着となっている。新馬戦の上位4頭が同じG1で再会を果たすという、。
なお5着馬のエイシンビートロンも交流重賞サマーチャンピオンを勝利している。
トウショウボーイ 1976年1月31日 東京芝1400m
年配のファンであれば、伝説の新馬戦というとこのレースがあがるようだ。
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | トウショウボーイ | 1 | 2.6 |
4 | グリーングラス | 3 | 6.5 |
5 | シービークイン | 8 |
TTG時代の幕開け
TTGは、1973年生まれの同世代3頭、トウショウボーイ、テンポイント、グリーングラスの総称である。正直、わたしも生まれる前のことであり、当時のことは資料でしか知りえない。第一次競馬ブームをけん引したハイセイコーから3世代下にあたり、当時の競馬界を盛り上げたと思われる。
3頭はいずれも年度代表馬に選出されており、トウショウボーイとテンポイントは顕彰馬にも選出。3頭が相まみえるとなった3戦(菊花賞、宝塚記念、有馬記念)はいずれも上位を独占した。この事実を知るだけで、3頭が傑出した存在であることは十分にうかがい知れる。
この新馬戦は3頭のうちの2頭が出走している。残る1頭のテンポイントは前年の8月函館芝1000mで10馬身差のレコード勝ちを収めている。暮れには阪神3歳Sを優勝し、すでに頭角を現していた。
トウショウボーイとグリーングラス
レースは人気のトウショウボーイが直線入り口で先頭に立つと、そのまま楽な手応えで3馬身差をつけゴールした。グリーングラスは中団から伸びきれず4着まで。
トウショウボーイは計4度リーディングサイアーを獲得することになるテスコボーイの2年目産駒。新馬勝ちののちは4連勝で皐月賞を制覇し、ダービーはクライムカイザーの2着。菊花賞3着から有馬記念優勝で4歳(現3歳)を終える。古馬となり宝塚記念を制し、秋の天皇賞は7着。テンポイントとのマッチレースで名勝負として名高い有馬記念(2着)を最後に引退した。
引退後もトウショウボーイは注目を集める存在であり続けた。種牡馬としても優秀で、三冠馬ミスターシービーを筆頭に、シスタートウショウ(桜花賞)、ダイイチルビー(安田記念、スプリンターズS)など多くの重賞勝ち馬を輩出した。
グリーングラスが未勝利を脱出したのは3戦目。条件を勝って臨んだ12番人気の菊花賞を勝ち、一躍世代の有力馬に。トウショウボーイとグリーングラスが引退した後も走り続け、天皇賞春と有馬記念を制した。
三冠のストーリーは両親のデビュー戦から綴られることに
同じレースで5着となったのが牝馬シービークイン。こちらも3戦目で未勝利を脱すると3歳牝馬特別を勝ってオークス3着と世代の一線級へ。古馬では毎日王冠と京王杯SCを制している。牝馬限定の古馬重賞が少ない時代であり、現代であればG1に手が届いたかもしれない。
このシービークインが引退し、初年度に配合されたのがトウショウボーイ。そして誕生したのが史上三頭目の三冠を達成することになるミスターシービーである。
アーネストリー 2007年7月8日 阪神芝1800m
のちにG1馬となる馬が3頭出走。トールポピーが出遅れ、キャプテントゥーレが伸び悩むなか、内からアーネストリーが鋭く突き抜けた。なお3着だったドリームシグナルも、G3シンザン記念を制している。
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | アーネストリー | 3 | 8.6 |
2 | トールポピー | 2 | 2.2 |
8 | キャプテントゥーレ | 1 | 1.8 |
注目を集めた良血馬2頭
人気はキャプテントゥーレ。アグネスタキオンの3世代目の良血産駒。母エアトゥーレは阪神牝馬S(G2)勝ちの実績。祖母はフランスのトップマイラー、スキーパラダイス。こちらは日本人騎手(武豊)による初海外G1制覇達成でも知られる。
次走の未勝利戦を勝ち上がり、その後は掲示板を確保しつつ、デイリー杯2歳S(G2)優勝、朝日FS3着と実績を重ねていく。皐月賞は7番人気の低評価ながら積極的な走りで逃げ残り、鞍上川田将雅にとっては初G1制覇となった。
トールポピーは前年のクラシックを賑わせたフサイチホウオー(皐月賞3着)の全妹。アグネスタキオンとはライバル関係にあったジャングルポケットの産駒。ちなみに全妹は秋華賞を優勝したアヴェンチュラ。
次走の未勝利戦を勝つと阪神JFを勝ち2歳女王に。主役として迎えたクラシックでは桜花賞8着と人気を裏切ったが、オークスでは見事に戴冠を果たした。
出世の遅れた勝ち馬
人気は上位2頭が分け合う形となり、良時計の調教で注目されたアーネストリーは離れた3番人気。レース後は骨膜炎を発症したこともあり、重賞に顔を出すようになるのは古馬になってから。3歳の暮れから9戦連続で重賞3着以内と安定した走りを見せる。
G1タイトルは5歳の宝塚記念。好メンバーを先行から抜け出し、女王ブエナビスタの追撃をしのいだ。
ローズキングダム 2009年10月25日 京都芝1800m
以後、G1で五度顔を合わすことになる2頭。その初顔合わせは他馬を圧倒した。3番人気は19.6倍。3/4馬身差の2頭の後ろは5馬身ひらいた。両者の対戦成績はローズキングダムの4勝2敗。
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | ローズキングダム | 2 | 2.2 |
2 | ヴィクトワールピサ | 1 | 1.8 |
薔薇一族の大器
ローズキングダムは、キングカメハメハの2年目産駒。祖母ロゼカラー(秋華賞3着)、母ローズバド(オークス2着)とにも重賞馬という良血。ノーザンファーム生産馬。
新馬後はG3東スポ杯2歳S、朝日FSと連勝。期待の大きかったクラシックは皐月賞4着、ダービー2着、菊花賞2着と脇役に甘んじた。3歳のジャパンCで1位入線したブエナビスタの降着で繰り上がり1着に。
世界を獲った馬の初戦は黒星
ヴィクトワールピサは、ネオユニヴァースの2年目産駒。半兄にアサクサデンエン(安田記念)、スウィフトカレント(天皇賞秋2着)がいる、こちらも良血。社台ファーム生産馬。
新馬後は5連勝で皐月賞制覇。2.1倍の1番人気を背負ったダービーはエイシンフラッシュの末脚に屈し3着。秋は凱旋門賞に挑戦も、ナカヤマフェスタが2着に健闘するなか7着に敗れる。暮れの有馬記念で大本命ブエナビスタを破る金星をあげる。翌春、オールウェザーで行われたドバイワールドカップを日本馬として初めて優勝。東日本大震災で混乱のさなかの日本に明るいニュースを届けた。
キョウエイマーチ 1996年11月30日 阪神ダート1200m
翌年クラシックを勝つことになる2頭がダート短距離の新馬戦で激突という珍しい一戦。1997年のクラシックホース4頭は共通点をもつ。それは牝系を戦前まで日本の馬で遡ることができるという点。ある意味、輸入牝馬に抵抗を示した最後の年であった。
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | キョウエイマーチ | 1 | 2.2 |
3 | マチカネフクキタル | 2 | 2.8 |
強力な逃げ馬に苦労したフクキタル
キョウエイマーチは牝馬三冠をメジロドーベルとしのぎを削った桜花賞馬。重賞計5勝、秋華賞、マイルCSで2着の実績を残した。新馬戦は逃げて直線もさらに突き放す大差勝ちで、非凡なスピード能力を見せつけた。通算でも6戦ダートを走っており、5歳時の交流重賞南部杯では2着となっている
マチカネフクキタルは菊花賞馬。プリンシパルS(OP)でサイレンススズカの2着となりダービーの出走権を獲得。ダービーは11番人気で、逃げた皐月賞馬サニーブライアンの7着に終わる。休養明けの秋初戦、G2神戸新聞杯でサイレンススズカを差し切り重賞初制覇。続くG2京都新聞杯も勝ち、トライアル連勝の勢いのままに菊花賞も制した。古馬初戦で「覚醒した逃亡者」サイレンススズカに大差をつけられ、以後は低迷。
アグネスタキオン 2000年12月2日 阪神芝2000m
全兄が当年のダービー馬。その兄を越える存在とデビュー前から公言されてきたアグネスタキオンが、まさかの3番人気。良血が揃いに揃った一戦。
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | アグネスタキオン | 3 | 5.8 |
2 | リブロードキャスト | 2 | 3.5 |
3 | メイショウラムセス | 4 | 7.1 |
5 | ボーンキング | 1 | 2.2 |
9 | アドマイヤセレクト | 5 | 9.0 |
世代の真打登場
アグネスタキオンは4戦4勝の皐月賞馬。父サンデーサイレンス、母は桜花賞馬アグネスフローラ、祖母オークス馬アグネスレディー、さらに全兄はダービー馬アグネスフライト。レースは一気の末脚で軽々と差し切り、2着とは3馬身半差。
その後も圧勝続きで連勝を重ね、三冠確実とされながらも皐月賞後に故障で戦線離脱した。種牡馬としても内国産として51年ぶりのリーディングサイアーに輝き、歴史に名を刻んだ。代表産駒はダイワスカーレット(有馬記念)、ディープスカイ(ダービー)など。
脇に追いやられた面々
このレースで1番人気を背負ったのは「生まれながらの王」ことボーンキング。父はサンデーサイレンス、半兄は奇跡のダービー馬フサイチコンコルド。年明けにG3京成杯を勝ち、G2弥生賞で再びアグネスタキオンに挑むが5馬身差の2着に敗れた。
2番人気はリブロードキャスト。父はブライアンズタイム、母は牝馬ながら南関東の三冠を制したロジータ。半兄にイブキガバメント(朝日チャンレンジC-G3)、カネツフルーヴ(帝王賞)。この低くはないレベルの一戦を2着としたが、結局中央では勝利を得ることができず、地方へ移籍した。
4番人気はメイショウラムセス。父は33億円で輸入された神の馬ラムタラ。母メイショウヤエガキはG3フラワーC2着馬、祖母コニーストンもG2デイリー杯3歳S2着の重賞実績がある。4歳のG3富士Sを勝利し、ラムタラ産駒として唯一の中央平地重賞馬になった。
5番人気は武豊騎乗のアドマイヤセレクト。1998年セレクトセールで最高額の1憶9000万円で落札されたサンデーサイレンス産駒。母の半兄に日本でも種牡馬として活躍したキンググローリアス(ハスケル招待H)がいる。5戦目で未勝利を脱出するものの、その後は500万条件にとどまり続けた。
アドマイヤベガ 1998年11月7日 京都芝1600m
インから暴力的な末脚で馬群を縫って先頭でゴールするも、直線の斜行が原因で4着に降着。鞍上の武豊は騎乗停止処分となり、お手馬が揃っていたエリザベス女王杯(エアグルーヴ)、マイルCS(シーキングザパール)、ジャパンC(スペシャルウィーク、エアグルーヴ)への騎乗ができなくなるという痛手を負った。
陣営は新馬を勝ったものみなし、2戦目は未勝利をパスし500万下特別エリカ賞へ。なにかと話題の多かったダービー馬の初戦。
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
4(1位入線降着) | アドマイヤベガ | 1 | 1.7 |
母子で輝く1等星
アドマイヤベガの母ベガは、武豊を主戦にクラシック牝馬二冠を制した名牝。繁殖として優秀で、アドマイヤベガのほかにアドマイヤボス(セントライト記念-G2)、アドマイヤドン(朝日FS、フェブラリーS)らがいる。
2戦目エリカ賞、暮れのラジオたんぱ杯3歳Sを快勝し、クラシックの主役へ。ダービーを制するが、皐月賞はテイエムオペラオー、菊花賞はナリタトップロードと、三強を形成した3頭でタイトルを分け合う形となった。とりわけナリタトップロードとはG2弥生賞からラストランの菊花賞まで5戦連続で対戦(アドマイヤベガの通算2勝3敗)しており、よき好敵手であった。
番外
グランアレグリア 2018年6月3日 東京芝1600m
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | グランアレグリア | 1 | 1.8 |
2 | ダノンファンタジー | 2 | 2.9 |
スティルインラブ 2002年11月30日 阪神芝1400m
着順 | 馬名 | 人気 | オッズ |
---|---|---|---|
1 | スティルインラブ | 1 | 1.7 |
6 | ヘヴンリーロマンス | 5 | 14.7 |