血統

良血の定義を考える

競馬の世界では「良血(りょうけつ)」「血統がよい」という言葉がよく用いられる。
一般に良血とは優れた遺伝子をもつことを意味する。ただその基準は明確でなく、各々が感じるままに用いられているように思われる。

今回は具体的に良血とはどんな血統を持つ馬かをテーマに書いていきたい。

競走馬はみな選別された存在

良血を辞書的に回答すれば優秀な競走成績を収めた馬を数多く輩出した血統から生まれた馬となろうか。

そもそもサラブレッドは競走用に品種改良をされた馬のことである。選別され続け、生き残ってきた点ではどの馬も良血とえる。ただ日常で用いられる良血という言葉はもっと相対的なものだ。

では、どういった点に着目して判別すればよいか。

血統の良し悪しは牝系でみる

牡馬と牝馬の特性の違い

まずは牡馬と牝馬の違いからみていく。

まずは牝馬には妊娠期間があることを押さえておきたい。年間に1頭しか産めず、生涯でもせいぜい15頭程度が限度である。

日本のサラブレッドの年間生産数は約8000頭である。この8000頭は母馬総数とほぼ等しい。一方の父馬の数は多数の牝馬と交配できるため、はるかに少ない。

生産者は優秀な仔を生む確率の高い種牡馬との配合を望み、一定の種牡馬に人気が集まる。2022年は年間に100頭以上の種付けをこなす種牡馬が60頭ほどおり、それらで生産数の8割程度を占めた。

競走成績と繁殖入り

競走成績の優秀な馬は次世代に優秀な遺伝子を引き継ぐと期待される。繁殖入りには競走成績での選別が行われるが、種牡馬は少ない頭数で需要を満たせるため、その選別は牝馬の場合よりシビアになる。

例えばG1を勝った牝馬が繁殖にあがれなかったという話はほぼ聞かない。しかし牡馬はG1タイトルを獲得しても種牡馬になれない場合があるほか、なれたとしても種付け対象となる牝馬が集まらない場合もザラにある。

種牡馬になるような馬の競走成績は概して優秀だが、繁殖にあがる牝馬の競走成績はバラツキがある。

繁殖実績

種牡馬は多数の種付けを行い春には多くの仔が誕生する。仮に初年度産駒が100頭いたとしよう。これらが2歳を迎えデビューしたとして、1頭も勝つことができなかったら、どうだろうか。おそらく翌シーズンの種付けでは、生産者の興味は他馬にうつってしまうだろう。生産者は高値で売れる仔馬を欲するので当然のことだ。

対して繁殖牝馬は年に1頭しか産めない。初年度産駒も1頭のみがデビューする。果たしてこの馬が走らなかったとして、その母馬の繁殖能力を結論付けることはできるだろうか。1頭では難しくても5頭なら傾向は掴めるかもしれない。ただその頃はもう繁殖牝馬としては晩年を迎えているはずだ。

種牡馬は多くの仔がいるためにその遺伝能力の良し悪しが早くに判別され得る。繁殖牝馬の見極めはなかなかに難しい。

牝系

繁殖牝馬1頭のみを判断材料とすると繁殖能力の優越を見抜くのは難しい。そこで注目するのは牝系である。牝系とは母とその産駒を辿っていくことだ。母や姉妹、また祖母やその牝駒といった具合に、近しい遺伝子をもつ馬を調査対象に加えていく。競争実績の優秀な馬が多数みられるなら、その一族の牝馬はまだ仔を産んでなくとも優秀な繁殖能力を有するだろうと期待される。

日本一の競り市セレクトセールで注目されるのは祖母くらいまでか。牝系が大事といっても遠くなるほど参考するのは難しくなる。

良血チェックシート

実績のある人気種牡馬の仔は父馬に関しては血統的に疑いがない。血統の評価に差がでるのは母馬とその牝系ということになる。
よって良血は以下の項目をどれだけ満たせるかによる。具体例をあげて終わりにしたい。

  • 父の競走成績が優秀(重要度:低)
  • 父の産駒成績が優秀
  • 母の競走成績が優秀
  • 母の産駒成績が優秀
  • 兄姉に活躍馬がいる(数が多い程望ましい)
  • 近しい牝系に活躍馬がいる(数が多い程望ましい)

文句のない超良血

アグネスタキオン

父は大種牡馬サンデーサイレンス、母は桜花賞馬、祖母はオークス馬、全兄はダービー馬。近親の活躍馬がやや少なくみえるが、血統的に近いところに活躍馬が多数おり、文句はない。

ドゥラメンテ

父はキングカメハメハ。祖祖母はオークス馬。祖母は年度代表馬エアグルーヴ。母はエリザベス女王杯優勝。兄弟に活躍馬はないが、近親には重賞馬がわんさか。

サートゥルナーリア

父はロードカナロア。母オークス馬。半兄にジャパンC優勝のエピファネイア、朝日FSを勝ったリオンディーズ。母の妹の産駒にジャパンC2着のオーソリティ。祖母が輸入馬で近親の判断が難しいが、これだけいれば十分。

誰もが認める良血

ジェラルディーナ

モーリスがやや割引も、母はG1を7勝したジェンティルドンナ。兄弟にまだ活躍馬はないが、母の妹にヴィクトリアマイル2着のドナウブルー、祖母の妹の産駒にダービー馬ロジャーバローズがいる。

人により判定が分かれる良血

ワグネリアン

父はディープインパクト。母は1勝馬。祖母ブロードアピールは重賞を多数制覇。近親に重賞馬はなく、本来なら良血には足りない牝系。ディープインパクトのプラス査定と母父キングカメハメハブロードアピールの合わせ技でなんとか。

ラッキーライラック

三冠馬オルフェーヴルの初年度産駒。母はアメリカのG1馬。レースにもよるが欧米のG1は高く評価されがち。近親に活躍馬はないが、祖祖祖母に名牝ステラマドリッドで遠くたどると活躍馬がみえてくる。

グローリアミノル

聞きなれない馬名だろうが、母は2017年の桜花賞馬のレーヌミノル。単なる重賞や地方G1とは違う、クラシックホースだ。

ブリックスアンドモルタルは産駒未デビューで評価が定まっていないものの、種付け料は高く期待感はある。近親の活躍馬は祖母がG3を勝っている程度とさびしい。

母が桜花賞馬であれば、よほど凡庸な父でなければ良血と判断されるだろう。