初心者向けに有力3歳牡馬のローテーションを解説していきます。
競走馬はやみくもにレースを走っているわけではありません。たくさんのレースがあるなかで、意図をもって出走するレースを選択しています。その過程のなかで、最高格付けであり賞金も高額なG1レースでの優勝を目指すことになります。
実力馬がどういったローテーションをたどっていくかを知ることで各レースの位置づけがわかり、JRAのレース体系への理解がすすみます。
近年はトレーニングセンター外(外厩)での調整技術が向上した影響で、トライアルを使わず本番(G1)に直行するケースも増えています。しかし、レースを使うのが競馬の基本で、トライアルの存在意義がなくなるわけではありません。
3歳牡馬の目標レース
数あるG1レースのなかで牡馬が出走できる3歳戦は計4レースです。そのうち皐月賞、ダービー、菊花賞はクラシックと呼ばれる歴史ある競走です。この3レースは三冠と総称され、いずれも勝つと栄誉ある三冠馬となります。近年ではディープインパクト、オルフェーヴルがすべてに勝利し、三冠馬の栄誉を授かっています。
3歳馬はこの三冠レースを中心にローテーションを組むといいたいところなのですが、残念ながら三冠の重みは失われつつあります。現状の3歳牡馬のローテーションは、競馬の最高峰であるダービーを勝つことを優先し、あとは距離適性に応じてレースを選択しているといったほうがいいしょう。
ダービーが最大の目標
3歳限定G1の開催時期
4レースのおおまかな開催時期と条件です。皐月賞とダービーが春に、菊花賞は秋におこなわれます。三冠レースは2000m、2400m、3000mと徐々に距離が長くなっていくのが特徴です。
レース名 | 時期 | 競馬場 | 距離 |
---|---|---|---|
皐月賞 | 4月 | 中山 | 2000m |
NHKマイルC | 5月 | 東京 | 1600m |
ダービー | 5月 | 東京 | 2400m |
菊花賞 | 10月 | 京都 | 3000m |
最初の一冠、皐月賞。
皐月賞自体も歴史あるレースで格式高いG1であることには変わりありませんが、ダービーの前哨戦という意味合いが強いです。皐月賞に出走した馬からダービー優勝馬が誕生する確率はかなり高いことからも、それは裏付けられます。
体調面を考慮して皐月賞を回避しダービーに備える馬もいますが、主だった有力馬は出走してきます。
皐月賞に出走するには
皐月賞は18頭しか出走できません。出走を希望する馬が18頭より多い場合は、以下のルールで出走馬が決まります。
- 優先出走権をもつ馬
- 本賞金順で上位の馬
- 本賞金が同額の場合は抽選
優先出走権を得るには
優先出走権とは文字通り、特定レースに優先的に出走できる権利のことです。皐月賞の優先出走権はトライアルレースの上位馬に与えられます。皐月賞トライアルには次の3レースが指定されていて、皐月賞の1か月ほど前に順次開催されます。
- 弥生賞(G2)…3着
- スプリングS(G2)…3着
- 若葉S(L)…2着
3レースで最大8頭が優先出走権を得ることになります。
本賞金のボーダーライン
残りの出走枠は本賞金の多い馬から順に埋まります。本賞金はレースで勝利するか重賞で2着になると加算されます。つまり実績上位の馬ほど出走が容易になります。
皐月賞への出走可能な本賞金のボーダーラインは毎年変わりますが、3勝馬であればまず問題なし。近年は条件2勝(新馬+1勝クラス)だと厳しい状況で、3勝馬であればまず問題なし。近年は条件2勝(新馬+1勝クラス)だと厳しい状況で、
- 新馬+OP勝ち
- 新馬+重賞2着1回
あたりの実績の馬がボーダーになることが多いです。
本賞金の十分な馬のローテーション
ここまでを踏まえて皐月賞へのローテーションをみていきます。
2歳時から重賞を勝つなど活躍している馬
3歳の初戦として皐月賞トライアルをひとつ叩いてから、皐月賞に臨むことが一般的です。皐月賞出走のための本賞金が足りていても、力関係の把握や経験を積ませるためにレースを使います。
近年の傾向
以前は弥生賞が最重要トライアルとして機能していたのですが、最近は有力馬の出走レースがバラける傾向にあります。トップ騎手が確保できるレースを選択したり、最大手のノーザンファーム系の有力馬同士が前哨戦で星の潰し合いをしないように使い分けがなされるためです。
実際の例です。出走に足る本賞金があるので、もはやトライアル競走は重視されません。
- ワグネリアン…弥生賞(G2)
- タイムフライヤー…若葉S(L)
- アルアイン…毎日杯(G3)
- スワーヴリチャード…共同通信杯(G3)
- レイデオロ…直行
皐月賞ではじめて有力馬が一堂に介しレースが盛り上がるという良さはありますが、各馬の力関係の把握は難しくなります。
3歳の1月、2月に本賞金を加算した馬
1月から2月にかけて有力馬が出走する主なオープンクラスのレースです。
- シンザン記念(G3)
- 京成杯(G3)
- 若駒S(L)
- きさらぎ賞(G3)
- 共同通信杯(G3)
- すみれS(L)
これらに出走した馬は皐月賞トライアルを挟むことが多いです。きさらぎ賞、共同通信杯、すみれSの勝ち馬は、トライアルを使わずに皐月賞に直行することが増えました。
本賞金が足りていない馬
皐月賞トライアルに出走し、優先出走権の獲得を目指します。
スピードを競うNHKマイルC
皐月賞から中2週で開催されるのがNHKマイルCです。NHKマイルCは1600mで行われるので、短距離に適性がある馬が集結します。
NHKマイルCは三冠レースと同じG1ですが、同列に扱うことはできません。マイルが走れても一線級の馬はダービーを優先するため、実際の扱いはかなり軽いです。
NHKマイルCに出走するには
NHKマイルCにもトライアルレースが指定され、上位馬には優先出走権が与えられます。
- ニュージーランドトロフィー(G2)…3着以内
- アーリントンC(G3)…3着以内
本賞金が少ない馬は、トライアルで優先出走権の獲得を目指すことになります。
有力馬のステップレース
トライアル2レースのほかでは、1800mの毎日杯(G3)も有力なステップです。あとは桜花賞組、皐月賞組のなかから距離適性を重視した馬が参戦してきます。
競馬の祭典ダービー
皐月賞から中5週で大目標のダービー(東京優駿)となります。
ダービーに出走するには
ダービーも出走できるのは最大18頭です。皐月賞と同じく優先出走権をもつ馬のほかは、登録馬の中から本賞金の順序で出走馬が決まります。
優先出走権を得るには
ダービーのトライアルには2レースが指定されています。
- 皐月賞(G1)…5着以内
- 青葉賞(G2)…3着以内
- プリンシパルS(L)…1着馬
皐月賞で5着までの馬に権利を与えるのは、ダービーをレベルの高いレースとするためです。皐月賞で掲示板にのるような馬は世代上位とみなされます。皐月賞1着、2着馬は本賞金が加算されるので、実質的に恩恵を受けるのは3着、4着、5着の本賞金の少ない馬になります。
本賞金のボーダーライン
「とにかくダービーに出走したい」ということから短距離馬やダート馬が参戦することもあり、ほかの3歳G1に比べるとボーダーラインが高めとなります。年によっては新馬+1勝クラス+オープンの3勝馬でも出走できないことがあります。
確実な出走を狙うなら重賞勝利の実績が必要
直行する皐月賞組
皐月賞に出走した馬はダービーに直行し、トライアルに出てくることは稀です。
本賞金の足りない皐月賞組
もちろん優先出走権がなく、本賞金も足りない馬はダービー回避を決断するか、無理を承知でトライアルを走ることになります。しかし短期間で負荷の高いレースが続くことになり、ダービーでの好走は期待がもてません。
本賞金がボーダーライン上の馬は難しい状況に追い込まれます。しかし、多くはトライアルに出走せず、本賞金上位の他馬が回避して自身が出走できるよう祈りながら調整を続けます。
ステップレース
ダービーに出走する馬の前走でもっとも多いのは皐月賞です。
その他の有力馬は青葉賞と京都新聞杯の東西のG2に集まります。京都新聞杯はトライアルに指定されていませんが、過去にダービー優勝馬もでており同等の役目を果たしています。対してダービーと同じ舞台の青葉賞では勝ち馬がでません。これは関西に所属する馬のほうがレベルが高いことに起因します。
年々と距離適性を重視する傾向が強くなってきており、NHKマイルCからダービーに向かう馬は減ってきています。
最後の一冠、菊花賞
ダービー出走馬の多くは、目標となるレースを終え休養に入ります。夏の間は北海道に放牧にだされ、秋の訪れとともにターフに戻ってきます。
菊花賞の舞台は京都競馬場の3000m。3000mは長距離のカテゴリです。時代とともにスピードが重視され、3000mを越えるレースは姿を消しつつあります。有力馬の回避が相次ぎ、菊花賞はかつてのような格がなくなってきました。
成長力とスタミナが問われる、最後の一冠
短距離に適性がある馬は古馬戦へ
3歳春までは同世代で争いますが、夏からは年長馬(古馬)と混合のレースもはじまります。
秋に3歳限定の短距離G1は開催されないので、スプリント(1000m-1300m)を主戦場とする馬は古馬混合のG1スプリンターズSを目指すことになります。マイルを得意とする馬はステップの重賞を使い、マイルCSを目標とします。
中距離に適性がある馬は天皇賞秋へ
昔と異なるのが中距離馬の動向です。3000mの距離に不安があっても、以前は菊花賞の栄誉を目指して出走してきました。いまでは皐月賞馬やダービー馬といった特に力量に自信のある中距離馬が距離適性を重視して、2000mの天皇賞秋に矛先を向ける馬が増えています。
菊花賞に出走するには
皐月賞、ダービーと同じく優先出走権があります。その他の出走馬が本賞金順で決まるのも同様です。
優先出走権を得るには
菊花賞トライアルには以下が指定されています。
- 神戸新聞杯(G2)…3着以内
- セントライト記念(G2)…3着以内
2レースともに菊花賞の1か月ほど前に行われます。
本賞金のボーダーライン
年度によりバラツキはありますが、皐月賞、ダービーに比べると出走に意欲を見せる馬が少なく、そこまでシビアなボーダーにはなりません。2勝クラスを勝っていれば出走にグッと近づきます。
春に活躍した馬のローテーション
放牧されて体を緩めていることもあり、トライアルを叩いて本番の菊花賞へ向かいます。勝負というより調整の意味合いが強いです。神戸新聞杯(G2)が有力ですが、関東馬はセントライト記念(G2)を重視するようになりました。
本賞金が十分でない馬のローテション
出走がそこまで難しくないため、トライアルを使わず自己条件の勝利をステップとする馬も多く存在します。トライアルは実績馬が強く、賞金の足りない馬が彼らを押しのけて3着以内に入るのは至難です。
古馬との対戦へ
(秋華賞と)菊花賞が終わると、以降は3歳戦がなくなり古馬とのレースになります。
三冠を終えたことで、同世代との対決にも一区切り。ここからのローテ―ションは各馬さまざまです。年内を休養に充てる馬、自己条件に戻って走る馬もいます。上位馬はジャパンC、暮れの有馬記念が次なる大目標になります。
実例
実際の馬のローテーションを何頭かみて、終わりにしたいと思います。
ヴェロックス
三冠皆勤賞。
- 若駒S(L)…1着
- 若葉S(L)…1着
- 皐月賞(G1)…2着
- ダービー(G1)…3着
- 神戸新聞杯(G2)…2着
- 菊花賞(G1)…3着
- 有馬記念(G1)…8着
若葉Sが弥生賞であれば完璧、由緒正しい3歳牡馬のローテーション。若駒Sは重賞ではないが毎年有力馬が集う注目レース。
ダノンキングリー
適性は1800m。
- 共同通信杯(G3)…1着
- 皐月賞(G1)…3着
- ダービー(G1)…2着
- 毎日王冠(G2)…1着
- マイルCS(G1)…5着
共同通信杯で賞金を加算しレース選択に余裕がもてた。皐月賞トライアルはパス。秋にマイルを指向する馬でも春はNHKマイルCは使わずにダービーへ。完成度の高さで距離は克服。毎日王冠後は天皇賞秋というプランもあったと思う。
アドマイヤマーズ
純正マイラー。
- 共同通信杯(G3)…2着
- 皐月賞(G1)…4着
- NHKマイルC(G1)…1着
- 富士S(G3)…9着
- 香港マイル(G1)…1着
かつてなら皐月賞4着であれば、ダービーを目指した。適正距離を重視し、マイルCに向かう馬も増えた。香港国際競争は同時期に適距離のG1がない馬には選択肢がひろがる重要な存在。
サートゥルナーリア
王者に許される新世代ローテーション。
- 皐月賞(G1)…1着
- ダービー(G1)…4着
- 神戸新聞杯(G2)…1着
- 天皇賞秋(G1)…6着
- 有馬記念(G1)…2着
2歳G1ホープフルS優勝から、皐月賞はぶつけで挑んだ。一昔前では考えられない。外厩の優秀性を改めて思う。菊花賞トライアルの神戸新聞杯を勝って、菊花賞はパス。権利はポイ捨て。