コロナの影響でスポーツやイベントが続々と中止となるなか、競馬はメジャースポーツでは唯一開催を続けた。競馬に馴染みのない方は、なぜ競馬だけが開催を続けることができたのか疑問に思ったと思う。今回はその理由について書いていきたい。
存在感を増す国庫納付金
競馬が開催を続けた最大の理由は巨額な国庫納付金の存在である。JRAの収める国庫納付金について説明していく。
国庫納付金とはなにか
中央競馬(JRA)は農林水産省が管轄する、いわば国営ギャンブルである。そして売上の一定額は国に収める必要がある。このお金のことを国庫納付金という。
国庫納付金の規模と使い道
JRAの馬券売上は年間約3兆円程。そのうち約10%の3000億円が国庫納付金となる。多くの成人国民が消費するお酒の税金(酒税)の約1兆5000億円と比較しても小さくない額であることがわかる。
コロナ禍で民間企業の業績は大きく悪化し、2020年度の税収も大幅減が予想される。政府は貴重な収入源である競馬の開催を可能な限り続けたいはずだ。
またJRAの国庫納付金の使用目的は、日本中央競馬会法36条により畜産の振興や社会福祉に充てられると定められている。社会福祉目的としてコロナ対策に用いられることもあり得、その社会的意義も大きい。
JRAの売上は落ちたのか
競馬は開催されても、観客の入場を認めない無観客競馬である。来場者がいないことで、売上にも大きく影響があったと思われるかもしれない。
たしかに入場料(開催場のみ200円)や場内のテナントからの収益などは減少となる。しかし、JRAの売上の大半は馬券によるものである。では、馬券の売り上げがどの程度影響を受けたのかみていこう。
ネットに限られた馬券購入
馬券の主な購入場所である競馬場と場外馬券売り場(WINSなど)は閉鎖となった。よって、馬券の購入手段はインターネットを利用したものとなる。
ネットを利用した馬券購入システムは早くから整備されており、安定した環境が整っていた。普段から馬券を購入する人には十分認知・普及していた。これまでネットを利用してこなかった層も、今回の出来事を期に多くが新たに登録したようだ。
実際の売上額
実際の売上額をみていこう。
競馬の祭典であるダービーを含む第2回東京開催(2020/4/25-5/31までの土日12日間)の売上は約1969億円で前年比は99.9%と横ばいで推移した。結果として馬券売上は前年と遜色なかったのである。
個人的には、コロナ禍で経済的に苦しい人が増え、ギャンブルどころではない人も多いのかと思っていた。しかし、実態は違ったようだ。窮屈な生活のなかに提供する娯楽として国民に受け入れられ、開催についても目立った批判は見受けられなかった。
競馬の中止が続くと起こること
仮に競馬が開催できないとなると、騎手や厩務員などの競馬関係者が経済的に苦しくなるだけにとどまらない。
中止は競走馬の命そのものにかかわる
率直に言うと競走馬は経済動物である。世の中の経済状況に大きく左右される。
仮に競馬の中止が続いたとすると、競走馬は馬主にとって賞金を稼がず高いコストだけがかかる存在となってしまう。さらに馬主の本業などが経済的に苦境に陥れば、競走馬を手放すことも十分に考えられる。
競走馬の引き受け手はそんなに簡単に見つかるものではない。かといって引退すれば、みな繁殖のため牧場に帰るわけでもない。
仔馬も売れなくなるだろうし、競馬開催の中止は、競馬界の循環そのものを止めてしまうのである。
人の移動と密集状態への対応
開催を続けるために関係者のコロナ感染は是が非でも避けたいところであった。多様な場面で、前例のない方策がとられている。
クラスターになりやすい環境
競馬そのものは屋外で行われ、レース中に騎手同士が接触することもほとんどない。感染リスクはレース外に存在する。
放牧に出されていない競走馬は普段、東西のトレーニングセンター(トレセン)にいることになる。トレセンには競走馬が常時2000頭ほどいて、馬の世話をする調教師、厩務員などの多くが周辺に居住地を構える。ひとたびコロナ感染が確認されれば、拡大しやすい状況といえなくもない。
コロナ禍の特例
競馬の開催には人馬の移動が伴う。コロナ対策で普段とは異なる試みがなされている。
騎手は前日に調整ルームという外部から連絡が遮断されるところに入ることを義務付けられているのだが、自宅やホテルからの競馬場入りが認められた。
また、騎手や競走馬の移動も、普段からは制限された。関東馬の関西遠征、関西馬の関東遠征が平地オープン、障害競走を除いて不可となった。騎手が土日で異なる競馬場で乗ることも禁じられた。
無観客競馬の影響
最後に無観客競馬について少し触れておく。
競走馬にとってはストレスフリー
競走馬はレース前にその馬体をパドックという場所で観客に披露するだが、そのパドックにおいてボロ(糞)の数が減ったという話があった。人も緊張状態に陥るとトイレが近くなるように、たくさんの人に囲まれた状態は馬にとっても緊張状態だったと教えてくれる。
G1でも大きな歓声があがることはない。競馬を知る身としては寂しい限りだが、競走馬にとっては好ましい環境といえるかもしれない。