種牡馬

種付け料は何に影響されて上がったり下がったりするのか

種牡馬の種付け料は一定ではありません。毎年大きく変動します。年末が近づくと、スタリオンから翌シーズンの種付け料が公表されます。種付け料の増減の理由は提示されないので、外部はあれこれと変動の要因を探ります。

初年度の種付け料の相場でも書きましたが、種付け料は繁殖牝馬の集まり具合に大きく影響を受けます。繁殖牝馬を有する生産者は、コスト(種付け料など)を抑え、セールでより高く売ることで利益を増やします。シビアな目で種牡馬を選別するのです。では、どういった事情が生産者(繁殖牝馬側)に影響を与え、それに伴い種付け料が変動するのでしょうか。

もっとも大切なのは産駒の活躍

産駒の競走成績はストレートに生産者に影響します。

産駒がデビューしていくにつれ、各種数字や重賞成績が露わになります。種牡馬の実力が明らかになっていくのです。

繁殖牝馬は期待値の高い種牡馬に集うので、奮わない種牡馬は種付け料を減額することで繁殖牝馬を集めようとします。お得感を出すのです。

しかし、種付け料はある種、期待値とイコールなので、高額の種付け料の種牡馬の元には質の高い繁殖牝馬が集います。つまり、種付け料の減額は繁殖牝馬の低下を意味します。

  1. 産駒が走らない
  2. 牝馬の集まりが悪くなる
  3. 種付け料の減額
  4. 繁殖牝馬の質の低下
  5. 産駒の走る確率も低下

こういった悪循環にはまり、ひっそり消えていく種牡馬も少なくありません。

産駒の活躍こそがすべて

すべてを覆すG1でのパフォーマンス

セリの購入者となる馬主は、下級条件でコツコツ稼ぐのではなく華々しくG1を勝ちたいと願っています。それまで低迷していた種牡馬でも1頭のG1馬が誕生するだけで、状況はガラッと一変します。もっとも生産者に好印象を与えるのがG1勝利です。

スクリーンヒーローを例にとります。モーリス(年度代表馬)とゴールドアクター(有馬記念)の活躍によって、80万円の種付け料が3年後に700万円と約10倍になりました。

G1にも格があり、もっとも影響力が高いのはダービーです。馬主はダービーオーナーになりたいし、生産者はダービー馬を生産したいのです。

活躍馬は多いほどいい

キタサンブラック(年度代表馬)の父ブラックタイドも80万円から300万円まで値上げしましたが、繁殖牝馬の集まりが悪く、翌年には200万円に減額しています。

1頭だけの活躍だとまぐれを疑われ、大幅な増額には生産者もついていきません。

もっとも力をいれる初年度産駒

どの生産者も注目するのが初年度産駒のデビューです。それまで「走る」と宣伝されていたものが現実の走りとなって結果に出ます。最初に設定された種付け料が適正だったのかがわかるのです。

デビューした産駒が散々であれば、翌シーズンの種付け料は減額に追い込まれます。高額馬ほどそれは顕著です。

お得価格だったのか、詐欺価格だったのか

減額より厳しいクビ宣告

種牡馬側の話をしましょう。

種牡馬と繁殖を双方抱え直生産する牧場(社台など)は、初年度の配合相手には質のよい繁殖牝馬を揃えます。活躍馬を早く出して種牡馬を軌道に乗せるためです。これには同時に種牡馬としての能力を早く見極めたいという思惑も潜んでいます。優秀な繁殖牝馬の限りある1年を無駄に使うことは許されません。

日本でもっとも優秀な種牡馬が揃うのは社台スタリオンステーション(社台SS)です。ここに新入厩する馬は相当な期待馬です。しかし、産駒の走りが著しく期待を裏切るものであれば、種付け料の減額にとどまらず、社台SSからの追放(他牧場へ移動)となります。

毎年、社台SSからの移動状況が公表されますが、数年で去る馬は見切りをつけられたということになります。天皇賞を勝ったスピルバーグなどは産駒デビュー前に移動となっています。幼駒の動きで判断されたと推察します。

移動となった馬の未来は明るくありません。質の高い繁殖牝馬の揃う環境で結果が残せなかったのですから。



産駒デビュー前の変動

産駒がデビューする前でも種付け料は変動します。

2年目の値下げ

初年度の種付け頭数が少なければ、強気な価格設定が裏目に出て繁殖牝馬が集まらなかったと解釈できます。

3年目の変動

3年目になると生まれた当歳(0歳)馬の評判が聞こえてきます。ただ、まだ競走馬としての資質の判定が難しいので、当歳馬の出来で価格が上下することは少ないです。

それにもかかわらず値上げした場合には、生産の現場で著しく幼駒の評判がよいと判断できます。値上げした種付け料でも満口(応募締め切り)になるようなら間違いないです。

産駒デビュー前の値上がりは、期待度もアップ。

他の種牡馬との比較

種牡馬も競争の世界です。他馬の動向にも左右されます。

新種牡馬

毎年のように新しい馬が種牡馬になるので、それにより影響を受けます。生産者がより魅力を感じる馬がいれば、そちらに繁殖牝馬が流れます。とくに血統構成が近かったり、実績のない既存種牡馬ほど影響を受けやすいです。

代替種牡馬としての需要

コパノリッキーは2018年に80万円から180万円まで値上がりしました。これは父であるゴールドアリュールが死亡したのが起因します。

上位互換となる馬がいなくなったことにより、供給側がその需要を見込んで値上げをおこなう場合です。

種牡馬の年齢による減額

高齢になるほど種付け料は減額し、種付け頭数も落ちていきます。若い種牡馬のほうが活力があり、未知なる魅力に勝るからです。

実際にG1馬の父の配合時の馬齢を調べても、8割近くが10歳以下です。(表は2005年以降に生まれたG1馬を対象に集計)

種牡馬の馬齢
(配合時)
G1馬数 割合
4 歳以下 2 頭 0.9 %
5-7 歳 81 頭 34.8 %
8-10 歳 62 頭 26.6 %
11-13 歳 40 頭 17.2 %
14-16 歳 27 頭 11.6 %
17 歳以上 21 頭 9.0 %

種牡馬の負担軽減を意図した増額

例外的な値上げを最後にみておきます。

ディープインパクトは2018年に3000万円から4000万円に値上げしました。これはもう産駒の活躍とか需要云々ではなく、

  • 種付け頭数を減らし、体調面の負担軽減
  • 一定レベル以下の繁殖牝馬お断り

と理解していいです。限られたトップ種牡馬だけにみられる現象です。

最後に

実際の種付け料の変動額はこちらから確認できます。各馬の種付け料の推移からその理由を探っていくのも面白いですよ。